荒川光のブログ

Hikaru Arakawa's blog

携帯電話の機種変更をしようとしたがローンが通らず泣いて帰ってきた話

携帯電話のショップに勤めている知人から電話があったのが1週間前のこと。

なんでも「助けてほしい」とのことで、携帯電話の機種変更をすることになりました。もう10年も前から彼のところで何台も携帯電話を買い替えている私なのです。

今使っている携帯は3年ほど前にやはり彼のところで購入したもので、今のところ何の不便も不都合もなく使い続けています。

 

 

次々に新しい機種が発売され、話題となり、多くの人々が競って最新機種に買い替えていることを、私もニュースなどで見聞きして知っているのですが、私自身は携帯電話が備えている豊富な機能のうちのごく一部しか利用しておらず、キャパの小さい私には同じくキャパの小さい携帯電話がちょうど良いと考えて、今の機種を愛着を持って毎日使っていたのです。

しかしながら、ショップの店員さんにもいろいろな事情があるのでしょう。

毎月の売上げ目標だとか、壁に貼られた営業成績の棒グラフだとか・・・。そういう胃をキュッとしめつけられるような暴力的な諸々の事情が、彼をして私に声を掛けさせたのに違いありません。

 

今の毎月の支払い額とそんなに変わらない金額で新しい機種を持てるとのことで、特別「最新機種アレルギー」でも「古物マニア」でもない私は、機種変更することを快諾しました。

友人はもとより知人すら少ない私にとって、誰かが頼りにしてくれるということは、たとえそれが営業活動としておこなわれているのだと知っていても嬉しいものなのです。

 

ただ私には一つ懸念されることがありました。

こんなところで告白するのも恥ずかしいのですが、実は私は様々な事情により、ローンを組めない状況にあるのです。

世間で言うところの、いわゆる「ブラック」というやつです。

どうしてこんなことになってしまったのかについてはまた別の機会に譲る(かもしれない)として、とにかく現在の私はローン契約を結ぶことは不可能な状態なのです。

ショップ店員の知人にもそのことを電話で伝えました。

しかし数日後に彼から連絡があり、私が新しい携帯を分割払いで購入することは可能だと言うではありませんか。

そんなことがはたしてあるのだろうかといぶかしく思いながらも、それではこの機会に機種変更をしてしまおうということで、日時を決めて携帯ショップへと赴きました。

 

ショップに到着して、久しぶりに会う知人と挨拶を交わした後、私はカウンターに案内されました。

かわいい女性の店員さんがその日の私の担当でした。

 

 

その店員さんに相談しながら新しい機種の種類を決めたり、色や、画面の大きさや、データの容量を選んだりしました。

電話帳やメール内容などのデータを新機種に移すやり方を教わったり、入っている写真はどうするかだとか、リセットがどうだとか、今使っている機種の下取り額だとか、たまっているポイントがいくら使えるかだとか、料金プランの変更はないかだとか、いろいろいろいろ・・・。

 

店員さんが私の携帯を操作している最中に、他人に、いわんや女性の店員さんに見られると非常によろしくない写真が画面に出てきて、一瞬で私が取り上げてうまくごまかし、冷や汗をぬぐったりなどという商談事故をも乗り越え、小一時間を経てようやく契約の運びとなりました。

 

そして、この後その日最大の山場を迎えることになるのですが、それはひと言でいうと、最後の最後になって、私がやはりローン払い不可能であることが分かったということなのです。

そんなことだろうと思ってたという気持ちで、そんなにショックはありませんでしたが、それなりに落胆したことは事実です。

その私とは対照的に、店員さんは現金で一括払いをした場合の金額をすぐに算出して「63000円になりますがどうされますか?」と事もなげにきいてきました。

もちろん本気で尋ねているわけではないでしょう。答えは分かっているはず。

 

そんな大金があるはずもない私は考える必要もなく即答できるのですが、ちっぽけなプライドが「う~ん、どうしようかなぁ」などと考える振りを私に強いるのです。

完全ブラックな、いわば犯罪者に近いような人間になんのプライドだと、二重に自分を恥じながら、店員さんが期待している通りに答えました。

店員さんと私とで短い芝居を演じたわけです。

 

このようにして辱めを受けた私は、しかし1時間も時間を取らせてしまったことを店員に詫び、その卑屈さにさらに自己嫌悪をつのらせて、知人に挨拶をして早々に店を出ました。

数日前にはローンが組めるという話だったのに、どういう経緯でこうなったのかということは尋ねもせずに。

 

一番悪いのはもちろんこんな体たらくな私自身ですが、二番目に悪いのはそんな私をそっとしておいてくれなかった知人なのです。

「悪質なイタズラかよ!」と私は心の中でつぶやきました。

ローンを組めるなんていう電話をよこしたことをです。

ブスに告白する罰ゲームなのに、喜んで、舞い上がって、そのあとガッカリさせられた女の子みたいな気分です。

 

その夜家に帰って、コンビニで買った500円くらいの赤ワインを飲んで少し酔った私は、自分の携帯に向かってお道化た口調で言ってみました。

「ゴメンよ、まだまだ元気なお前を、新しいのに替えようなんて、バカな考えを起こしてさ。一生使うから、心配すんな」と。

 

こんなクサいセリフを囁いている自分が、猫に話し掛けているより異常っぽく思えて、でもなんだかモヤモヤが吹っ切れたようなさっぱりした気分になって、多分というか絶対にそれはアルコールのせいだと分かっているのだけど、とてもいい気分になって、「あー良かった、ローン通らなくて! ヘッヘッヘッ」くらいの気持ちになって、幸せに眠りにつきました。

というオチでした。

 

めでたしめでたし。