一か月ほど前の話になります。
仕事を終えて帰宅した私は、乗って帰ってきた車のタイヤをスタッドレスタイヤに自分で交換しました。
そしてその後エンジンルームの点検もしようとしてボンネットを開けた時、「ワッ」と叫んでしまいました。大人げなく。
エンジンルームの中に子猫が一匹
ボンネットが開けられて水銀灯に照らされたエンジンルームの中に、一匹の子猫の姿が。
その猫は「まぶしいなぁ」とでもいうように顔をそむけて、お尻の方から後ずさって機械のすき間に潜り込み、そのままエンジンルームの下へ消えました。
その後エンジンルーム内をくまなく探したのですが猫はいませんでした。
恐らく下から地面に降りて走り去ったのでしょう。
猫は大慌てで逃げたようには見えませんでした。
「あれ、見つかっちゃったー? ごめんなさーい」という感じで、ゆっくりと中へ入りこんでいき、下から外へ出たのです。
ここで私には一つの疑問が浮かびました。
この猫はいつどこでエンジンルームの中に入ったのか?
タイヤ交換をしている30分くらいの間に入ったのでしょうか?
しかしその間私はずっと車のそばにいて、ジャッキで車を上げたり下げたり、ホイールを外したり付けたり、レンチでナットを緩めたり締めたりと騒がしくしていたのです。
警戒心の強いノラ猫がそんな車に近づいてエンジンルームの下から中へ入り込むなんてことがあるでしょうか?
その可能性はちょっと考えにくいように思います。
実は私の中で、この問に対する答えは出ているのです。
あまり想像したくないことだったので、別の可能性を考えてみただけなのでした。
もったいぶらずにさっさと答えを言いましょう。
この猫は私が勤めている会社の駐車場にいた猫に違いないのです。
その駐車場にはノラ猫が何匹かいて、時々エサをやっている従業員が何人かいます。
私も見かけることがあるのですが、黒の親子、痩せたキジトラ、そして最近になって見かけるようになった、生まれて3か月くらいかという白黒の子猫です。
私は車のボンネットを開けたときの一二秒しか猫の姿を見ていませんが、あれは確かに会社の駐車場にいる白黒の子猫でした。
子猫は熱く狭いエンジンルームの中で、会社から自宅までの20分あまりを過ごしたのです。
エンジンは触れば火傷するくらい熱くなっていたことでしょう。すぐそばではベルトが高速回転。エンジンの騒音。ガソリンと排気ガスの臭い。激しい振動と揺れ。
私がこんな状況に置かれたら恐怖で気が変になってしまいそうです。
会社から家まで帰る途中でコンビニエンスストアに10分ほど立ち寄りました。
その間エンジンは切っていたのですが、猫は外へ出られなかったのでしょうか?
外へ出るための経路に踏むと熱いような部品があって出られなかったのでしょうか?
いずれにしても私は生まれて間もない子猫をひどい目に合わせてしまったのです。
一歩間違えればベルトに巻き込まれたり、焼け死んだりする可能性だってあったのです。
ボンネットを開けた時、猫は慌てて逃げて行こうとはせず、眠りから目覚めたばかりというような少しダルそうな様子でゆっくりと姿を消したのでした。
今思えば猫はきっと弱っていたのに違いありません。ノラ猫の敏捷さはありませんでした。
無事に生きていてくれて本当に良かった。生まれた町から離れたこの地で、たくましく生きていってくれることを祈るばかりです。
次の日に出勤した私は会社の仲間にエンジンルームの中に猫がいた話をしました。
その猫に目をかけて可愛がっていた女性は私を非難しはしなかったものの、とても残念がっていました。
そしてその日以降、会社であの白黒の子猫の姿を見ることは今にいたるまでありません。
エンジンルームの中で犠牲になる猫が多いという話は私も知っていました。
冬場に温かいエンジンのそばで暖を取っていた猫が、車のエンジンをかけた瞬間にベルトに巻き込まれてしまうという事故が多いそうです。
だけどまさか自分の車でそんなことが本当に起こるなんて。
最近の車や高級車などはエンジンルームの下側がアンダーカバーでおおわれているため猫が入りにくいと思います(注・そのためのアンダーカバーではおそらくない)。
しかし私の乗っている古い軽自動車にはアンダーカバーなど付いていません。
また今の車は狭いエンジンルーム内に部品が整然と、そしてギッシリ詰まっているため大きい猫なら入り込むスペースがないかもしれません。
しかし私の車はエンジンルーム内がスカスカで、ボンネットを開けると上から容易に地面が見えるほどですし、猫が5匹くらい入れる居住スペースもあるのです。
猫にとって私の車はとても入り心地の良い車だったのですね。
日産の#猫バンバンプロジェクト
そんな猫の命を守るために、エンジンをかける前にボンネットを手で叩いて猫をびっくりさせ、外へ逃がしましょうということが言われています。
日産自動車が提唱している「#猫バンバンプロジェクト」をご存じでしょうか?
自動車メーカーが製品についての取り組みだけでなく、動物の命を守るための活動もしてくれたことをとても嬉しく思います。
ぜひ猫バンバンのサイトをのぞいてみてください。
猫バンバンをするのは簡単。でもできない、やらない理由3つ
件の事件以降、私は車のエンジンをかける前には極力ボンネットをバンバン叩くようにしています。
でも「毎回必ず」とはいかないのです。
1)やるのを忘れた
「忘れただって!? 猫をあんな目に合わせておいて、それを忘れてただって? もう車に乗る資格がないね」
そうは言ってもついうっかりしてしまうこともあるものです。でも猫の命にかかわることなので忘れてましたで済むことでもありません。
猫バンバンステッカーというものがありますので、ぜひ手に入れて車の目立つところに貼っておこうと思います。自分への意識付けと周知のためです。
このステッカーは猫がタイヤをかじっているデザインで、結構気に入ってます。ステッカーの自作の方法を紹介しているサイトも見つけましたので私も自分でやってみるつもりです。
2)急いでいた
出勤するにも待ち合わせ場所に向かうにもいつもギリギリの私。でも遅刻することはないという自信からギリギリが習慣になってしまっているのです。
これは本当に改めなければならない悪い習慣ですね。
急いでいるから車に跳び乗ってすぐに発進させる。ボンネットをバンバンやっている暇がない。たった10秒足らずのことができないのです。
そんな余裕のない人間はいつか事故に見舞われるでしょう。
3)周りの人の目が気になってやるのが恥ずかしかった
ボンネットをバンバン叩く行為はやってみると結構気恥ずかしいものです。
「猫バンバンを知らない人が見たらなんと思うだろうか?」と考えてしまいます。
「車の調子でも悪いのかね?」
「ヘッドライトが切れていて、叩いて点けようとしているんだわあの人、ハハハ」
なんていう声が聞こえてきそうな気がします。
また猫バンバンについて知っている人の前でもちょっと躊躇してしまいそうです。
あんまりカッコいい仕草ではないんですね、この猫バンバン。
私のようにいかにも調子の悪そうなボロ車だったら車をバンバン叩く動作はお似合いなところもあるのですが、ピカピカに磨かれたベンツのボンネットをお洒落な紳士や淑女が叩いていたらどうでしょう? 美しい所作に見えますか?
それにキズや凹みができないか心配にもなりますね。
猫の命がかかっているのですからなりふりかまってなどいられないという気持ちもありますが、だからと言っていつでもどこでもバンバンやれるものでもありません。
自動車メーカーにはぜひとも対策をお願いしたいです。
例えばこんなのはどうでしょうか?
猫がエンジンルームに入り込めないようなアンダーカバーや金網の設置。
あるいは猫が嫌がる音を出して猫を寄せ付けない装置をエンジンルーム内に設置。
教習所でも教えてください
猫がエンジンルーム内で犠牲になることがあるということを教習所でも教えるようにすればどうでしょう?
いや、もしかしたらすでに教えているのかもしれませんね。忘れているだけで私も実は教わっていて、教本にも記載されているのかもしれません。
ちゃんと確認してから発言するべきでした。今後調査してみます。
あと余談になりますが、猫バンバンの「バンバン」はちょっと語調が強いような気がします、私にとっては。
少し乱暴な響きがないでもない。猫トントンくらいの方が馴染みやすい気もしますが、本当にこれは余談です。
美しい理念に基づく猫バンバンにケチをつけるみたいで、書かない方が良かったかもしれませんが、一応削除せずに残しておくことにしました。
それではこの辺で。
みなさん、明日からバンバンバンバン車を叩いて猫を守りましょう!!