荒川光のブログ

Hikaru Arakawa's blog

運転代行の料金はなぜタクシー代よりも安いのか?

 

運転代行の料金は地域によって相場に大きな違いがあります。

東京、大阪、名古屋などの大都市ではもちろん高く、私が住んでいる田舎の県では驚くほど安いです。

一体どれくらい安いのかって?

なんとタクシー料金よりも安いのです。

 

その安さがどれほど無謀なことかをご理解いただくために、タクシー代行というものをご紹介します。

 

 

 

一般の運転代行と違って、タクシー代行ではお客様のところへタクシーで迎えに行きます。

このタクシーにはもう一人従業員が乗っていて、その従業員はお客様の車の回送だけをおこないます。お客様自身はタクシーに乗って目的地へ向かうのです。

 

このタクシー代行の料金がいくらなのかは会社によってそれぞれだと思いますが、タクシー料金を下回ることはないだろうと思います。

なぜなら通常のタクシーとしての仕事プラス客の車の回送をしているからです。もう一人分の人件費が発生しているのです。

たとえ客車の回送は無料サービスにするということにしたとしてもタクシー料金と同額になるはずで、タクシー料金よりも安くするということは考えられません。

 

ところが私の住んでいる県ではタクシー料金よりも安い料金で運転代行の営業をしているのです。

 

なぜそんな料金で経営が成り立つのでしょうか?

答えを言わせてもらいましょう。すなわち経営は成り立ってなどいないと。

 

私の県ではまともに経営が成り立っている代行会社は皆無といっていいのです。

大方の会社は最低賃金を下回る賃金で従業員を雇っています。そして休憩を取らせない、残業代を支払わない、有給休暇を与えない、源泉徴収した所得税を国に納めない、社会保険に加入しない、などの画策をすることによってどうにか会社を機能させているのです。

 

そしてそんな会社を支えているのは他に行き場の無い労働者たちです。

正規の金融機関からお金を借りることのできない人が、ヤミ金から高い利息を取られてでも借りるのと同じように、ちゃんとした会社に勤めることのできないワケありな人たちはこんな劣悪な労働条件下でも働くのです。

そしてもちろん私もその一人。

 

 

 

経営計画もなく、先の見通しも考えずに、新たに代行会社が誕生します。

この県では代行会社はしょっちゅう誕生するのです。

ボロの軽自動車2、3台と、時給に換算すれば700円を切るような賃金で夜中の2時3時まで働く奇特な労働者が数人いれば始められる商売なのです。

田舎なので車を停めておく空き地には不自由しません。

 

営業戦略も何もありません。客を獲得するための方法として思いつくのは料金を安く設定することだけなのです。

そしてそれは確かに有効な手段で、客は増えます。

貧乏な県の貧乏人が安い酒を飲んだ後、少しでも安い代行で帰ろうとするからです。

 

売り上げが一時的にパーっと上がる。随伴車をもう数台買い足す。ドライバーの数を増やす。会社は成長している。そんな風に考えているのです。

 

春に支払う自動車税や、毎年ある車検代や、自動車保険料や、消費税の支払いや、故障した車の修理代や、擦り減ったタイヤの交換代といった、当然発生することが分かりきっている経費にすら、考えが及ばないのです。

 

つまり、まったく行き当たりばったりのテキトー経営。

これが我が県の運転代行業者の実態です。

客からどれだけの料金をもらえば経営が成り立つのか、考えることができないのです。

 

そして会社は潰れます。

でも大丈夫、心配はいりません。次の馬鹿がまたすぐに同じような会社を作りますから。そして当然すぐに潰します。

この呪われた循環によって運転代行の需要は常に満たされるようになっているのです。

結局のところ得をするのは客だけです。

 

きちんとした仕事をして、それに見合う料金をお客様からいただく。

多くはなくても法律で定められた給料を従業員に支払う。

納めるべき税金は納める。

そんな普通の会社としてやっていくことができないのです。

 

捨て身の価格破壊をすることでしか客を獲得できない。しかも当の会社はそれを捨て身だなどと思ってもいない。儲かっていると勘違いしている。計算ができないのです。

会社を始めて1年が経ってもまだ黒字か赤字かの大雑把な計算すらできていない。本当の話です。

わずか数人でやっている会社の簡単な金勘定すらできないのです。

 

別に会社が潰れたってかまいません。従業員にとってはそんなことは痛くも痒くもない。別の代行会社へ移ればいいだけなのです。みんなただのアルバイト。田舎なのでみんな顔なじみで、すぐに声も掛かります。

 

私は先ほど馬鹿という言葉を使いました。

気が付きましたでしょうか? それともサラッと読み飛ばして気にもならなかったでしょうか?

私は普段そんな言葉を決して口にはしません。しかし今ここで、意を決して、泣きながらその言葉を使ったのです。

この業界全体に対する憤りと悲しみを込めて。

 

真夜中に車を走らせて、酔っ払いの客から横柄な態度を取られて、使いっ走りの子分みたいにアゴで使われて、「あんた何でこんな仕事してるの?」なんて蔑まれて、それでもニコニコへーこらして「ありがとうございました」と言って1000円を貰うのです。大の大人が2人がかりでです。

 

配車の指示を受けて、遠く離れた場所から全速力で客を迎えに行く。

店に着いてから15分も20分も待たされて、やっと出てきた客を送る。

3Kmまで1000円、5Kmで1500円、10kmで3000円てなもんです。

 

こんなやり方で、こんな料金で会社がやっていけるのかどうか、どうして分からないのでしょうか?

他の会社もみんなそれくらいでやっているから高くはできないのです。料金を高くしても納得して利用してもらえるような付加価値を考え出せないのです。

本当に社会の最底辺の人間がやっている仕事です。

 

誤解しないでください。私は運転代行業が程度の低い仕事だと言っているのではありません。

運転代行は人の役に立ち、社会の役にも立ち、飲酒運転による悲劇から人々を守る大事な仕事です。

でもやっている人間の頭が悪すぎて出口を見つけられない。業界全体がこの社会から搾取されているのです。

 

私も頭が悪すぎて何の知恵も出てきません。そして良い知恵の出てくる人はもっと別の業界でその能力を発揮させるのでしょう。

 

一人の才能のあるヒーローが現れてこの県のこの業界を救いに導いてくれるのでしょうか?

それとも私たち凡人以下の人間が集まって、話し合って、ない知恵を出し合って、少しずつ良い方向に推し進めていくしかないのでしょうか?

 

そんなことを考えている間に、みんなが自動運転の車に乗るような時代になり、運転代行業そのものをこの世から葬り去ってしまうのでしょうね。 

 

それもまた、それで良し。